旅行

こっそり個展を開いた後、イギリスに行き、本当はニューヨークで見たかったアーバスの回顧展をV&Aで見て来た。いい具合に旅行の日程と美術館でのアーバスシンポジウムの日程も重なり、思った以上に密度の濃い経験が出来たと思う。ここにはきちんとは書かないけれど、少しだけ報告。
アーバスのプリントはこれまでも断片的には見た事があったけれど、改めて大量にプリントを見ると、本当にその黒が美しいことを思い知らされる。アーバスのプリントは黒をかなり大胆に落としたプリントだと思うけれど、その漆黒の闇が私をとらえて離さないような気がした。何も見えない黒の中に浮かぶ人の姿を見ていると、見えないものを、私は見ているのだ、という気がしてならなかった。
シンポジウムには、死後のアーバスのプリントをしているニール・セルカークも来ていて、色々と興味深い話が聞けて面白かった。彼によれば、アーバスはネガとコンタクトシートをホチキスで1シートづつまとめて保管していて、その収納の順序も不明らしく、人気作家でありながら大規模な回顧展がこれまで無かったのも、それの整理に手間取ったというような内幕もあるらしい。ニール・セルカークは非常にサービス精神の旺盛な人で、アーバスが写真を撮る時の物真似もしていた。
シンポジウムの最後はアーバスが生前に行ったスライドショーの録音に、スライドショーのスライド上映を再現した映像をくっつけた映像(ややこしい説明で申し訳ないけれど、そうとしか言いようの無い映像なのだ)を流していた。アーバスの声を聞くのは初めてで、それと写真をどういう風につなげたりつなげなかったりしたらいいのか分からないけれど、本当に楽しそうに自分の写真を説明しているその声が、たとえアーバスのもので無いとしても、私はとても嬉しくそれを聞いただろうということは分かる。
http://www.vam.ac.uk/


それから、ちょうどテートモダンでジェフ・ウォールの個展が開かれていて、ついでにそれも見て来た。ジェフ・ウォールはこれまで紙面でしかみたことがなく、そんなに興味もなかったのだが、実際に作品を見たら結構面白かった。映画を意識していることをウォールは全面に出しているけれど、巨大なライトボックスとして発光する作品を見て初めてその意味と面白さが分かったような気がする。写真は人間を包み込むようなサイズであり、実際に光が人を包み込む。ウォールの作品は多分見る、といより体験するものなんだろう。
時々紛れ込む演出やデジタル操作の無い木の根もとなど撮った写真がむしろ写真として割と普通の大きさに伸ばされていたのも面白かった。
http://www.tatemodern.com/

フォトグラファーズギャラリーはちょうど展示の入れ替え中でした。