ディスプレイの黒

ディスプレイ上では、黒は光の無さでしかないという単純な事をウェブサイトを作ると思い知らされる。翻って、プリントの黒は光が無い事じゃなくて、光を吸収している黒で、単なる暗さではない、という事。ウェブに写真を載せた事で、自分の写真がいかにプリントを必要としているか、プリントであるかを確認出来て行くのは悪く無いことだと思う。
別に銀塩である事にこだわりはないし、もしかしたらデジタルでもよかった、と思っていた時期もある。だけれど続けて行くうちに、自分が銀塩のモノクロ写真が有している質感に影響されていて、どれだけそれを必要としているかという事が重みを増して来る。始めた時や選んだ時に根拠があったわけではなく、銀塩であることは非常に偶然的な事であったのだけれど、事後的にそうした選択が必然性を帯びてしまうのかもしれない。けれどそうして取り返しがつかない事、それがとても重要なことなのだろうと思う。

website

ウェブサイトを作りました。
まだまだコンテンツが少ないですが、段々と充実させてゆくつもりです。既発表の作品の紹介を中心としたサイトにしてゆくつもりです。
とりあえず、現在は昨年の個展の写真が見られます。

http://chikakoenomoto.googlepages.com/

Absolute Reasons その後

あっという間に写真展の5日間も終わり。額をおろした後の白い壁を見ていると、本当にあっけなくて、写真がそこに並んでいた事すら夢のようだ。もうあの光景を見る事はない。寂しくて、少し泣きそうになる。自分の写真の一枚いちまいよりも、その集合体として、空間に並べられた写真の方が、ずっと私にとっては大切なのかもしれないし、それを作り出したいのかもしれない。
「Absolute Reasons」は1m幅のフレームに入った全倍が2枚、600×700cmのフレームに入った小全紙が12枚で構成される展覧会でした。展覧会はもうこれで終わりですが、この14枚の内の4枚が来年2月頃に出るPhotoGRAPHICAという雑誌に掲載される予定です。まだどれを載せてもらうかも選んでいません。これからゆっくり考えます。ただ、紙面に構成されたものは、恐らく同じ写真でありながら、全く別のものとして現れるのだろうという気がしています。
次回の写真展はまだまだ全く予定がありませんが、ここ2年のうちに開ければと思っています。再来年の春頃が目標でしょうか。まあ、まだまだ完全に白紙です。またしばらくは、ただ黙々と写真を撮り続ける日々に戻ります。会場で見た写真をおろした後の白い壁、今は自分自身もそのような状態であるということです。次にどんな写真に会えるのか、それが不安でもあり、楽しみでもあるところです。

再開

blindeno2007-11-20

誰に向けるでもない日記を、もう一度はじめてみます。一度ここも整理するかもしれませんが、とりあえずは一年強放っておいたそのままにしておきます。ずっと立ち入らなかった庭に立つようで、その方が良い気がします。伸び放題にしておいた枝は、いつか剪定するかもしれないが、とりあえずはその荒れ果てた様を愛でよう。


突然こんな事をするのは、そろそろウェブ上に写真を掲載する事も、悪く無いなと思い始めたからです。具体的にはまだ何もしていませんが、半年くらいをめどに、ウェブ上でこれまで発表した分だけでも、人に見せられる場所を作ろうと思います。これ迄は、ウェブ上で自分の写真を見せることには非常に抵抗がありました。いまでも新作は展覧会場の壁面で見てほしいけれど、一度そのようにして「作品」としてピリオドを打ったものについては、もうどのように見られても良い気がしてきたのです。それらは、もう私が手を加えることを止めたものたちで、一人歩きすべきなのだと思うのです。

そして現在、個展を開催中です。この展覧会と、前回2005年のDAEDALUS展をもって、ウェブを立ち上げられればと思います。


榎本千賀子写真展 Absolute Reasons
2007.11.19(mon)-24(sat)
12:00-19:00(最終日17:00まで)
表参道画廊
http://www.omotesando-garo.com/

昔話

暗室を終えて外へ出ると、足下で何かががさがさいう。猫かと思うが猫にしては随分大きい。よく見るとそれは狸だった。このあたりには狸が居るよ、というのは人から聞いていたのだけれど、まさかこんなに間近で対面する事になろうとは思わなかった。狸はあと二歩も進めば触れそうな距離で、こちらを見ながらなにかくちゃくちゃ食べていた。私がしゃがんでおいでおいでをすると、逃げもせずこちらへ少し近づくようなそぶりを見せた。狸の事を教えてくれた人によれば、この辺りの狸は人からいろいろと餌をもらっているので随分と人なつこいということだったが、本当にその通りだった。だけれども、私の方から狸へと近づくと、狸は驚いた様にして逃げてしまった。けれどもまだそれほど遠くはない草むらから私の事をうかがっていた。あまり脅かしては可哀想だし、もう随分と遅い時間で、私ももう帰ろうと狸を後に残して駅へ向かった。
狸と別れて駅へ向かう途中、鞄に入れていたはずの定期入れが無い事に気付いた。ほんの数分歩いた所だろうか。急いで引き返してみると、一度も出した覚えのない定期入れが暗室に置いたままになっていた。あの狸に化かされたんじゃないかと思いたくもなるが、ただ私がうっかりしていたのだろう。
引き返した時には狸はもういなかった。あの狸、くちゃくちゃと食べていたのは一体なんだったのだろう。