抽象

最近『錯乱のニューヨーク』という本を読んでいて、それが結構面白い。別に新しく出た本でもないし、なにか読まなければならない用事があったという訳でもないのだけれど、何となく手にして読んでいたら随分とよい拾い物だった。ニューヨークがいかに抽象的な幻影のような街であるかが分かる本。私はコニーアイランドの遊園地、ドリームランド炎上のくだりを読んでいて泣いてしまった。夢がこの世に実現されようとする試みというのは、どこかいつも不可能の色彩を帯びていて、それだけで悲哀を抱いてしまうのに、それが失敗に終わり、しかもその失敗がドリームランドの企て、見せ物としての災害だと思われた、というのは本当にドリームランドが夢として成就するにはそこにあってはならなかったのだ、という宣言のように思われてしまう。そしてそのような有様は厳しく美しい。

錯乱のニューヨーク (ちくま学芸文庫)

錯乱のニューヨーク (ちくま学芸文庫)