手前

思い切って日記を変えることにしました。
これからは榎本千賀子の署名で書きます。そして、榎本千賀子は写真家です。
とはいえ、書く事はそんなに変わらないでしょう。

日曜日、バイトを終わらせてからオペラシティーにシュテファン・バルケンホール展を見に行って来た。最初の風景や建物を彫ったレリーフがもっている違和によって引き込まれてしまった。木彫で浅く付けられた凹凸の中に、その凹凸とぶつかりながら掘り出されている風景や建築のパースペクティブが表されていて、遠くからではそれは分からない位なのだけれど、近くに依るとその奥行きの重なりが刻一刻と入れ替わる様に翻弄されてしまう。そうやって翻弄されることが私は楽しくて仕方なかった。それを見ていて、レリーフに掘り出された風景の中で、一番手前にあるのがいつも空で、しかもそれはレリーフ上の他の箇所の荒々しい堀跡を知らないつるりと平坦な表をさらしている、というのに気付いた。いつも遠く手が届かないはずの空は、レリーフ上では空は一番手前にあり一番私の近くにある。けれどそれはやはり手をつけられていない。その錯綜が甘美だ。