笑顔

今日、電車に乗ったら向かいの席に座ったおばさん(五十代くらいかな?)が車内中に不快な視線を投げつけていた。眉間にしわを寄せて、汚いものでも見るみたいに車内の人達を遠慮などみじんも無く睨みつけている。時々このおばさんに限らず、何が気に入らないのか、自分以外の人をとんでもなく失礼な目で見る人が居るけれど、そういう人が私は本当に嫌いだ。そのおばさんが一体何者なのか知らないけれど、一体どんなつもりでそんな目をしているのか知らないけれど、どんな人であれあんな目で睨まれなくちゃならない理由などないはずだ。おばさんの人を馬鹿にした目をみていたら段々腹が立って来て、どうにかしてこのおばさんを一泡吹かせたいと思った。
最初はおばさんに電車を降りる間際に「笑ってごらんなさい」(漫☆画太郎みたいだ)と言おうかと思ったのだけれど、あまりに直接的すぎてエレガントでないので止めた。それで私はおばさんに声をかける代わりに、おばさんが私に嫌な視線を向け、目が合った瞬間、満面の笑みでその視線に答えてみた。すると、おばさんは深い眉間の皺をさらにキュッと深くして、泣きそうな顔になった。その一瞬の変化があまりに強烈で、おばさんが私を気違いだと思ったかなんなのか知らないけれど多分本当に怖かったんだろうとしっかり分かって、私はその場で腹を抱えて笑いたくなったけれど、不必要に他の乗客に気がおかしいと思われたく無くて必死に我慢して元の通りの平静な顔を繕った。ちらっと見たらおばさんは固く下を向いていた。
以上の話を母にしたら、母はそんなことするのは止めなさいという。頭おかしいと思われるわよ、とも言う。私はでもそんなおばさんにならいくらだって頭おかしいと思われたいと思うし、そんな人になら頭おかしいと思われた方がずっと良いんだと思った。
ああ、でもおばさんの眉間の皺のキュッとした変化、本当に傑作な顔をしていたな。おばさんは意味不明の笑顔を投げつけられて怖かったろうなー、ああ、ゆかいゆかい。私は頭がおかしいかどうかはしらないけれど、結構意地悪だ。